無限充足-讀賣新聞1999年4月1日付夕刊から

難病男性が画文集
命あることに感謝京の風景59枚

 全身の筋力が徐々に衰える難病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)で寝たきりの京都市内の男性が、京都の風景を題材に画文集を出版した。不治の病と知って創作意欲にかられ、まだ動けた一年足らずの間に五十九枚の水彩画を描き、寝たきりになってからはパソコンで文を書いた。「無限充足」と名付けた本には、命あることへの感謝と希望があふれている。

告知から1年 自宅で水彩画 パソコンで文章添え

同市伏見区の元公務員、高田俊昭さん(48)で、九三年から寝たきり。人工呼吸器を付け、食事も会話もできない。

原因も治療法も不明のまま病状が進行するALSと告知され、勤めをやめたのは九一年春。あと数年の命と覚悟、好きだった絵を動ける間にと決意した。車いすに乗るなどして、枝垂れ桜が美しい醍醐寺や家族連れが憩う木津川、初夏の鴨川などを訪ねて写真を撮り、自宅で絵をかいた。

一年足らずで腕が動かなくなり、あごで操作できるパソコンで文を書いた。

<これ以上よくならないなら 今日が一番いい日 これ以上よくならないなら いま、この瞬間が一番いい刻(とき) いま、あることに感謝、感謝>

 <数年先、必ずやってくる自らの死に思いをめぐらしたとき、初めて自分が見たいもの、見えなかったものが見えてくる>

 現在、動かせるのは眼球やあごの筋肉などわずかだが、パソコン画面から文字を拾って家族や友人に意思を伝えたり、時々の思いを記録したりしている。

告知まで三年間、理由を知らないまま体が弱り、苦しんだ。告知され、むしろ安らぎを感じたという。画文集はそんな時に輝いた命の記録と言える。

三人の子どもに父として何もできない悩みも、ある看護婦の「父親はいるだけでいい」という言葉でふっ切れた。生きている限り見守ろう、という気持ちを「体が動かず、声さえ奪われても、疲れた旅人に安らぎの木陰を提供できるような大樹になりたい」との文章に託している。