なぜ、いま「福島はあなた自身」なのか
(2018年3月16日 掲載)
福島の原発事故から7年。この数年間で明らかになってきたことがあります。ひとつは、不幸中の幸いですが、チェルノブイリほどの被曝被害は起きなかったことです。放射性セシウムの放出量はチェルノブイリの1割程度。大気中に放出された放射能の7~8割が西風により太平洋の方へ流れたことも、被害が拡大しなかった要因です。
もうひとつ、居住可能な区域が広がる一方で、帰還困難区域の大半は人が立ち入れない状態がいつ終わるともしれず続くことです。この両面を見据える眼をもちたいと思います。
『福島はあなた自身』(福島民報社)は、根拠のない風評や理不尽な福島バッシングを防ぐための現場からの報告と科学的データです。昨年、東京大学で行われたシンポジウムの参加者たちが寄稿し、私も「被災動物は何を語るか~原発事故後の牛、犬、猫たち」と題する一文を書き、質疑応答も載っています。
今後、避難指示が解除されて居住が可能になった地域の安全性を見据えながら、原発事故発生直後の恐怖心や放射線に対する理解不足を現状のデータで上書きしていかなければなりません。そうしないと、風評をいたずらに流布し福島バッシングに手を貸すことになってしまいます。
たとえば昨年、「ほうしゃのう」や「ばいきん」と呼ばれ、蹴られたり金をせびり取られたりしていた生徒の手記が公表されました。福島県から横浜市に自主避難した中学1年生の男子生徒が、小学2年のときに市立小学校に転入した直後から、いじめが始まりました。
「福島の人はいじめられるとおもった。なにもていこうできなかった」と、生徒は苦しい胸の内を綴っています。「いままでなんかいも死のうとおもった。でも、しんさいでいっぱい死んだからつらいけどぼくはいきるときめた」
文部科学省の聞き取り調査でも、「福島へ帰れ」「放射能がうつるから来ないで」などと言われた小中学生の例があります。
原発事故後、放射能という言葉は人を攻撃し、傷つける武器になったのです。子どものいじめの要因を、排除されて居場所を失う不安が強まる格差社会、生きづらい大人の社会の反映に帰することもできますが、それを触発したのは放射能であり、避難者への誤解です。目に見えない恐怖を伴う放射能は、色分けされた汚染地図を越えて日本の社会に、いじめが横行し差別が渦巻いている社会へ拡散したのです。
本書の「まえがき」で、編者の一ノ瀬正樹さんが、「福島に対する態度は自分自身のことなんだ、道徳的な問題なんだ」と述べています。
私は、放れ牛と牛の餓死・安楽死処分、被災した犬と猫、被災地のアニマルセラピーについて書きました。
「置き去りにされて餓死した動物、行方不明になったペット、安楽死処分にされた家畜、そして今も生き延びている牛は、原発事故の理不尽さとともに、動物を愛玩しながらも動物を捨てる人間、家畜を生産し肉を消費する人間とは何か、人間性とはどういうものかを問いかけてくる存在だと思います。
最後に、これはまったくの個人的見解ですが、避難指示区域で継続飼養されている牛に汚染されていない清浄な餌を与えることにより、出荷基準を満たしたものについては、希望者が食肉として購入できる機会があってもよいと思います。「木を見て森を見ず」に倣っていえば、肉を見て牛を見ないような現代の暮らしを見直すきっかけになるのではないでしょうか。苦労して飼いつづけている農家を支援することにもなります。そして風評被害を「食い止める」ためにも――」