『牛と土―福島、3.11その後。』文庫本発刊

被曝地で牛が生き延びる意味、そして牛と人間の愛

(2018年3月17日 掲載)

2015年3月発行の『牛と土―福島、3.11その後。』が文庫本になり、集英社文庫の一冊として発刊されました。

オビの推薦文を中沢新一さん(人類学者)が寄せてくださいました。私は長年、中沢さんの著作を愛読してきましたので、講談社ノンフィクション賞の選評で「動物の弁護士」という言葉で拙著を推していただいたときは、感謝するとともに我が意を得たりという気がしました。今回のオビにも「動物の弁護士」と書かれています。

実際に原発事故後、福島の被災地に取り残された牛や犬・猫たちの状況は、誰かが代弁しなければならないほど苛酷なものでした。餓死、飼い主と別れての放浪(放れ牛)、安楽死という名の殺処分……。そして、安楽死処分に同意しない飼い主によって生き延びながらも、生きる意味が問われつづけてきました。

飼い主の側からみれば、自らの賠償金や慰謝料をつぎ込んでまで、被曝してもはや商品でなくなった家畜を生かすことに何の意味があるのか? 彼らは生き残った牛たちが草を食べることで、放射能物質に汚染されて人が立ち入れなくなった農地をきれいに保ってくれることに気づいていきます。ふるさとの大地を荒廃から守ってくれるのです。それだけではありません。私はしだいに、牛と人間の間に通う愛情を感じるようになっていったのです。

文庫本の解説は小菅正夫さん(獣医師・旭山動物園元園長)。長年、動物と身近に接してこられた方だからこそ書ける、牛飼いの心と響き合うような情熱的な文章を寄せていただきました。阪神淡路大震災の経験、さらには太平洋戦争のときの動物園の状況が語られており、非常時の動物の運命を考えさせられます。また、デンマークの動物園の例など、西洋人との考え方の違いも実に興味深いです。

拙著を読んでくださる読者は、この解説によってさらに眼が開かれると思います。